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「夜型生活は不健康」は本当か? 健康リスクを考える
カテゴリー 推薦文章
2021年9月28日 3:00
ナショナルジオグラフィック日本版
朝型・夜型(クロノタイプ、日周指向性とも呼ばれる)と健康との関係についてこれまで数多くの研究が行われてきたが、総じて夜型に分が悪い結果となっている。例えば、夜型の強い人ではBMI(体格指数)が高く、抑うつ傾向が強く、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、心筋梗塞や脳卒中などの重大疾患にかかりやすい。その結果、なんと死亡率も高い。普段の生活でも喫煙や飲酒習慣が多いとされる。
夜型が強い人で健康リスクが高い原因は実は科学的に解明されていない。いや、より正確に表現すれば「夜型生活」が健康リスクを高める理由はある程度分かっているのだが、「夜型体質」が悪玉であるのかは依然として不明である。「夜型生活」と「夜型体質」の違い? 混乱気味の読者が多いと思う。この両者の違いについては「睡眠サイクルの朝型夜型って何?」でも解説したが、以下、簡単にまとめてみよう。
「夜型生活」とは、文字通り、夜更かし型(遅寝、遅起き)の生活のことである。調査研究を行う際には、対象者の就床時刻や起床時刻などを指標として、夜型生活者、朝型生活者などにグループ化する。このような定義による夜型生活者の中には、後述する夜型体質のために早寝早起きができない人だけではなく、飲食業などに従事しているためやむを得ず夜型生活を送っている人や、自由業など出勤時刻に縛りがなく自己選択的に夜更かし生活を送っている人まで、多種多様な生活者が含まれる。ちなみに、人の体内時計の周期(1日の長さ)は平均すると24時間よりも少し長いため、時計を気にせず自由に生活できれば多くの人は夜型生活に陥る。
一方「夜型体質」とは、体内時計の周期が長い、体内時計の時刻合わせに必要な光に対する感受性が低いなどの体質的な理由により、好むと好まざるとにかかわらず夜型生活に陥りやすい生体機能の特性を指す。このような体質を持つ人は、必然的に睡眠をはじめとするすべての生体機能リズムが大きく遅れてしまうため、意志の力だけでは早寝早起きができない。私はこれを「真の夜型」と呼び、区別しやすいように前述した自己選択的な夜型生活者を「なんちゃって夜型」と呼んでいる。決してちゃかしているわけではないので誤解なきよう。
健康リスク、多くが「夜型生活」に関する研究
さて、朝型・夜型と健康リスクに関する研究の大部分は、「夜型生活」に関するものである。つまり、調査対象者の実生活上の就床時刻や起床時刻を元に朝型・夜型を判定している。
夜型生活者の多くは、就床(入眠)時刻は朝型生活者に比べて大幅に遅れる一方、出勤や家族の朝食作りなどの家事があるため起床時刻には大きな違いはない。そのせいで夜型生活者の睡眠時間は朝型生活者に比べて一般的にかなり短い。寝つきが悪くて寝酒をする人もいる。平日の睡眠不足から休日は寝だめが多く、運動もサボりがちである。これら一つ一つが健康リスクを高めることは有名なので改めて解説の必要もないだろう。
そのため、朝型と夜型生活者間で生活習慣病や抑うつなどの健康リスクを比較する場合には、これら睡眠時間、飲酒、運動などの交絡因子(結果に影響を及ぼし得る要因)の影響も勘案して「夜型生活」そのものの影響を分析する必要がある。実際、交絡因子を調整して解析すると、健康リスクに主に関連するのは睡眠時間、飲酒、運動など交絡因子の方であり、「夜型生活」であること自体の影響は限定的であることが分かる。つまり、遅く寝たり遅く起きたりすることそれ自体が問題なのではなく、夜更かし生活に伴って生じることの多い睡眠不足や不活発なライフスタイルの影響がかなり大きいと言えるだろう。
この結果を深読みすると、「夜型生活」であっても出勤や家事などの心配がなく、遅く寝た分だけ寝坊ができれば睡眠不足から解放され、健康リスクは相当程度解消されるのだろうか? ここからは筆者の推測だが、食生活や飲酒、運動などに留意すれば、生活習慣病などの疾患のリスクはさほど高まらないのではなかろうか。残念ながらスケジュールに追い立てられることの多い現代社会ではそれを実証した研究はないのだが。
ただし、過去の多くの研究結果によれば、うつ病については「夜型生活」を放置しない方がよさそうである。ごく最近も、大規模な遺伝研究コホート(遺伝子を提供するボランティア集団)を用いた研究で、「夜型生活」がうつ病と関連すること、「朝型生活」に移行することうつ病リスクが低下することを示唆するデータが報告された。来月は、「夜型生活」とうつとの関係、その対処法についてもう少し深掘りをしてご紹介する。
三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO75482890W1A900C2000000/
ナショナルジオグラフィック日本版
朝型・夜型(クロノタイプ、日周指向性とも呼ばれる)と健康との関係についてこれまで数多くの研究が行われてきたが、総じて夜型に分が悪い結果となっている。例えば、夜型の強い人ではBMI(体格指数)が高く、抑うつ傾向が強く、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、心筋梗塞や脳卒中などの重大疾患にかかりやすい。その結果、なんと死亡率も高い。普段の生活でも喫煙や飲酒習慣が多いとされる。
夜型が強い人で健康リスクが高い原因は実は科学的に解明されていない。いや、より正確に表現すれば「夜型生活」が健康リスクを高める理由はある程度分かっているのだが、「夜型体質」が悪玉であるのかは依然として不明である。「夜型生活」と「夜型体質」の違い? 混乱気味の読者が多いと思う。この両者の違いについては「睡眠サイクルの朝型夜型って何?」でも解説したが、以下、簡単にまとめてみよう。
「夜型生活」とは、文字通り、夜更かし型(遅寝、遅起き)の生活のことである。調査研究を行う際には、対象者の就床時刻や起床時刻などを指標として、夜型生活者、朝型生活者などにグループ化する。このような定義による夜型生活者の中には、後述する夜型体質のために早寝早起きができない人だけではなく、飲食業などに従事しているためやむを得ず夜型生活を送っている人や、自由業など出勤時刻に縛りがなく自己選択的に夜更かし生活を送っている人まで、多種多様な生活者が含まれる。ちなみに、人の体内時計の周期(1日の長さ)は平均すると24時間よりも少し長いため、時計を気にせず自由に生活できれば多くの人は夜型生活に陥る。
一方「夜型体質」とは、体内時計の周期が長い、体内時計の時刻合わせに必要な光に対する感受性が低いなどの体質的な理由により、好むと好まざるとにかかわらず夜型生活に陥りやすい生体機能の特性を指す。このような体質を持つ人は、必然的に睡眠をはじめとするすべての生体機能リズムが大きく遅れてしまうため、意志の力だけでは早寝早起きができない。私はこれを「真の夜型」と呼び、区別しやすいように前述した自己選択的な夜型生活者を「なんちゃって夜型」と呼んでいる。決してちゃかしているわけではないので誤解なきよう。
健康リスク、多くが「夜型生活」に関する研究
さて、朝型・夜型と健康リスクに関する研究の大部分は、「夜型生活」に関するものである。つまり、調査対象者の実生活上の就床時刻や起床時刻を元に朝型・夜型を判定している。
夜型生活者の多くは、就床(入眠)時刻は朝型生活者に比べて大幅に遅れる一方、出勤や家族の朝食作りなどの家事があるため起床時刻には大きな違いはない。そのせいで夜型生活者の睡眠時間は朝型生活者に比べて一般的にかなり短い。寝つきが悪くて寝酒をする人もいる。平日の睡眠不足から休日は寝だめが多く、運動もサボりがちである。これら一つ一つが健康リスクを高めることは有名なので改めて解説の必要もないだろう。
そのため、朝型と夜型生活者間で生活習慣病や抑うつなどの健康リスクを比較する場合には、これら睡眠時間、飲酒、運動などの交絡因子(結果に影響を及ぼし得る要因)の影響も勘案して「夜型生活」そのものの影響を分析する必要がある。実際、交絡因子を調整して解析すると、健康リスクに主に関連するのは睡眠時間、飲酒、運動など交絡因子の方であり、「夜型生活」であること自体の影響は限定的であることが分かる。つまり、遅く寝たり遅く起きたりすることそれ自体が問題なのではなく、夜更かし生活に伴って生じることの多い睡眠不足や不活発なライフスタイルの影響がかなり大きいと言えるだろう。
この結果を深読みすると、「夜型生活」であっても出勤や家事などの心配がなく、遅く寝た分だけ寝坊ができれば睡眠不足から解放され、健康リスクは相当程度解消されるのだろうか? ここからは筆者の推測だが、食生活や飲酒、運動などに留意すれば、生活習慣病などの疾患のリスクはさほど高まらないのではなかろうか。残念ながらスケジュールに追い立てられることの多い現代社会ではそれを実証した研究はないのだが。
ただし、過去の多くの研究結果によれば、うつ病については「夜型生活」を放置しない方がよさそうである。ごく最近も、大規模な遺伝研究コホート(遺伝子を提供するボランティア集団)を用いた研究で、「夜型生活」がうつ病と関連すること、「朝型生活」に移行することうつ病リスクが低下することを示唆するデータが報告された。来月は、「夜型生活」とうつとの関係、その対処法についてもう少し深掘りをしてご紹介する。
三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO75482890W1A900C2000000/
2024-08-19