陶氏診療院

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規則の知恵
商売が公平に成り立つためには、基準を設けることが最も重要です。しかし、利益を追求する中で不正を試みる商人も存在するため、厳格な規則が必要となります。そのような商売の規則について先人たちの知恵をひも解くと、「心」というキーワードが浮かび上がってきます。

中国では商売道具として使われていた木製の天秤(秤)は、一説によれば大工の神様とされる魯班(ろはん)が発明したとされています。この天秤には、北斗七星と南斗七星の影響を受け、13個の星の花が刻まれており、一斤は13両でした。

秦の始皇帝が六国を統一した後、天秤の13個の星に「福」「禄」「寿」という3つの星を加えたとされます。始皇帝は度量衡を統一する勅令を出し、この時、一斤を16両と定めたのです。

また別の説によれば、斉国の漁師たちがテコの原理を使って魚を捕らえていたのにヒントを得て、范蠡(はんれい)氏が木製の天秤を発明し、一斤を北斗七星と南斗七星に基づいて13分割としたといわれます。しかし、商人たちは利益を得るために、客に気づかれないよう天秤の重さを偽ることがありました。

その対策として、天秤の13個の星に「福」「禄」「寿」を加えることで、次のような意味を込めたとされています。

一両不足すると「福星」を失う。
二両不足すると「禄星」を失う。
三両不足すると「寿星」を失い、寿命が縮む。

こうして天秤は、単に重さを測る道具にとどまらず、商人の心に規範を与えるものとなりました。「心の秤」という考え方が、行動を制約する力を持ったのです。

この話からふと思い出すのが、日本で北海道大学に貢献したクラーク博士の逸話です。当時、教育指導を依頼されたクラーク博士は、北海道大学の分厚い校則を見せられると、「これほど細かい規則では優れた人材を育てることはできない」として、その校則をすぐにゴミ箱に捨てたといわれます。

代わりに博士が生徒たちに示した校則は、たった一言、**「紳士になれ」**でした。この言葉は、紳士らしい行動を自ら規範として心に留めるよう促すものでした。

現代社会の法律は、犯罪に対して罰則を課すことはできますが、人々の行動を根本から制約する力には限界があります。規則が真に効果を持つためには、それが人々の心を動かさなければなりません。先人たちの知恵を活かし、心に響く教育や規則を作ることが、これからの社会にとって理想的ではないでしょうか。
2024-11-24