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水素を勉強しよう⑤水素と生命
カテゴリー 講演会
ユルいけど強い、DNAの水素結合
ポスターでは、その「ほどよいユルさが生命をつないでいる」と表現した水素結合。DNAの複製や転写といった過程では、二重らせんがほどけたり、また相手とくっついたりを繰り返します。確かに水素結合は、分子を作る共有結合に比べて1/10程度の強さの比較的弱い(=ユルい)結合ですが、ユルいながらも特異性の強い結合でもあるんです。
水素結合の特徴は「方向性があること」。一般的に、有機分子中の酸素や窒素は「ちょっとだけマイナス」の性質を持っています。そしてちょっとだけマイナスの酸素や窒素と結合している水素は「ちょっとだけプラス」になっています。分子では、いろいろな原子が電子を共有しているのですが(まさに共有結合ですね)、原子によって電子を引きつける力=電気陰性度が違うので、電荷の偏り(極性)ができてしまうのです。つまり、水素原子の中で一番プラスが強いのは、酸素や窒素と逆方向の部分です。
DNAの塩基対を見てみましょう。A-Tでは2本の、G-Cでは3本の水素結合が同じ向きに一直線になっています。これは、一番強い結合ができる方向です。正しい相手とペアを組んだ時に、複数の水素結合によって強く結合するため、DNAは複製や転写といった過程で正しい相手を選ぶことができるのです。また、生理的な条件では簡単にほどけたりしません。
ちなみに温度を上げて分子のエネルギーを増して行くと、DNAの水素結合は切れて二重らせんがほどけます。これをDNAの変性と言います。変性、というと、もう性質が変わってしまって元に戻らないようなイメージがありますが、温度を下げていくと、ペア同士が再び結合します。これを繰り返して、DNAを人工的に複製する方法がPCR(Polymerase Chain Reaction)法で、わずかなDNAを増幅させることができます。この方法の鍵となったのが、好熱菌のDNAポリメラーゼ。温度を上げても失活しないDNA合成酵素がPCR法を可能にしています。
PCR法は、絶滅した動物からのDNAを取り出して進化を研究したり、犯罪捜査や親子鑑定などに使われるDNA鑑定、医療診断等にも幅広く使われています。PCR法を可能にしたのも、DNAの水素結合がユルいけど強い、つまり、好熱菌のDNAポリメラーゼが働く範囲の温度でくっついたり、ほどけたりする「ほどよいユルさ」のおかげとも言えますね。
さて、生命の2/3を占めている水分子。水分子内でも電荷の偏りがあります(極性分子と言います)。どこがプラスでどこがマイナスかは、もうお分かりですよね。そのため、水分子はお互いに水素結合を作っています。このため水は、同じぐらいの分子量のメタンやアンモニアなどに比べて、融点も沸点も異常に高いのです。水が常温で液体なのはあたりまえのように感じるかもしれませんが、これも水素のおかげだったのですね。ただし、液体の水の水素結合は、方向がバラバラなので、DNAの水素結合ほどは強くはなく、ホントにユルユルの結合です。
文部科学省科学技術週間(一家に1枚)より
ポスターでは、その「ほどよいユルさが生命をつないでいる」と表現した水素結合。DNAの複製や転写といった過程では、二重らせんがほどけたり、また相手とくっついたりを繰り返します。確かに水素結合は、分子を作る共有結合に比べて1/10程度の強さの比較的弱い(=ユルい)結合ですが、ユルいながらも特異性の強い結合でもあるんです。
水素結合の特徴は「方向性があること」。一般的に、有機分子中の酸素や窒素は「ちょっとだけマイナス」の性質を持っています。そしてちょっとだけマイナスの酸素や窒素と結合している水素は「ちょっとだけプラス」になっています。分子では、いろいろな原子が電子を共有しているのですが(まさに共有結合ですね)、原子によって電子を引きつける力=電気陰性度が違うので、電荷の偏り(極性)ができてしまうのです。つまり、水素原子の中で一番プラスが強いのは、酸素や窒素と逆方向の部分です。
DNAの塩基対を見てみましょう。A-Tでは2本の、G-Cでは3本の水素結合が同じ向きに一直線になっています。これは、一番強い結合ができる方向です。正しい相手とペアを組んだ時に、複数の水素結合によって強く結合するため、DNAは複製や転写といった過程で正しい相手を選ぶことができるのです。また、生理的な条件では簡単にほどけたりしません。
ちなみに温度を上げて分子のエネルギーを増して行くと、DNAの水素結合は切れて二重らせんがほどけます。これをDNAの変性と言います。変性、というと、もう性質が変わってしまって元に戻らないようなイメージがありますが、温度を下げていくと、ペア同士が再び結合します。これを繰り返して、DNAを人工的に複製する方法がPCR(Polymerase Chain Reaction)法で、わずかなDNAを増幅させることができます。この方法の鍵となったのが、好熱菌のDNAポリメラーゼ。温度を上げても失活しないDNA合成酵素がPCR法を可能にしています。
PCR法は、絶滅した動物からのDNAを取り出して進化を研究したり、犯罪捜査や親子鑑定などに使われるDNA鑑定、医療診断等にも幅広く使われています。PCR法を可能にしたのも、DNAの水素結合がユルいけど強い、つまり、好熱菌のDNAポリメラーゼが働く範囲の温度でくっついたり、ほどけたりする「ほどよいユルさ」のおかげとも言えますね。
さて、生命の2/3を占めている水分子。水分子内でも電荷の偏りがあります(極性分子と言います)。どこがプラスでどこがマイナスかは、もうお分かりですよね。そのため、水分子はお互いに水素結合を作っています。このため水は、同じぐらいの分子量のメタンやアンモニアなどに比べて、融点も沸点も異常に高いのです。水が常温で液体なのはあたりまえのように感じるかもしれませんが、これも水素のおかげだったのですね。ただし、液体の水の水素結合は、方向がバラバラなので、DNAの水素結合ほどは強くはなく、ホントにユルユルの結合です。
文部科学省科学技術週間(一家に1枚)より
2019-03-28